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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12324号 判決

原告

大谷一宏

被告

定免芳男

主文

一  被告は、原告に対し、金四九八八万五三三〇円及びこれに対する平成五年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限りに仮執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一億八一四六万三四六六円及びこれに対する平成五年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故)

(一) 日時 平成五年一一月一四日午後三時三五分ころ

(二) 場所 大阪府摂津市千里丘一丁目六番一七号先東西道路上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪三五つ五九〇)

(四) 被害車両 原告運転の自動二輪車(大―吹田市は七九六〇)

(五) 態様 被告は、本件事故現場付近の東西道路を東進して、南側路外駐車場施設に右折進入するため、対向車線上に存在した連続渋滞停止車両の前面を横切って右折したところ、対向車線南側路上を西向きに直進してきた被害車両の右側部に加害車両右前部を衝突させて、原告を路上に転倒させた。

2  (責任)

(一) 被告は、自己のために加害車両を運行の用に供する者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基き原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告は、その対向車線上には連続渋滞停止車両が存在していたのであるから、その前面を横切って右折しようとするときは、右連続渋滞停止車両の左側(南側)には、車両の通行余地が存在し、同余地を西向きに直進してくる車両のあることが予測されるうえ、右連続渋滞停止車両のため西進する車両の有無の確認をすることが困難な状況にあったのであるから、右連続渋滞停止車両の前面の左方の見通しのきく地点で一時停止して、西進車両の有無を確かめ、その安全を確認したうえで進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と右折進行した過失があるので、民法七〇九条に基き原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  (傷害、治療経過、後遺障害)

(一) 傷害の内容

本件事故によって、原告は二五九日間(うち三日間は転院日で重複するから合計入院日数は二五六日間)の入院及び約二四か月の通院(実通院日数一五六日)を要する左血気胸、左腕神経叢損傷、左鎖骨骨折、左側脳室後角出血、左第一、二肋骨骨折、びまん性軸索損傷、頭部外傷後遺症、左第一、二、三肋骨脱臼、胸椎横突起骨折の傷害を負った。

(二) 治療経過

(1) 入院(合計二五六日間)

〈1〉 三島救命救急センター(高槻市)

平成五年一一月一四日から同年一二月一〇日まで二七日間

〈2〉 大阪医科大学附属病院(高槻市)

平成五年一二月一〇日から同年一二月一四日まで五日間

〈3〉 藍野病院(茨木市)

平成五年一二月一四日から平成六年三月一四日まで九一日間

〈4〉 大阪医科大学附属病院

平成六年三月一四日から平成六年五月九日まで五七日間

〈5〉 大阪医科大学附属病院

平成七年六月一六日から同年九月二日まで七九日間

(2) 通院(実通院日数合計一五六日)

〈1〉 大阪医科大学附属病院

平成五年一一月三〇日から平成七年三月二七日まで(実通院日数一〇八日)

〈2〉 大阪医科大学附属病院

平成七年三月二九日から平成七年九月一六日まで(実通院日数二二日)

〈3〉 大阪医科大学附属病院

平成七年九月一八日から平成八年八月五日まで(実通院日数二三日)

〈4〉 博愛会茨木病院

平成六年一月二六日

(三) 後遺障害

(1) 原告は自覚症状として、左肩関節以下の自動運動が不能であり、知覚脱失状態にある。

(2) 原告は、左上肢の肘関節はほんのわずかに屈曲するのみであり、日常生活に全く役立たない状態にある。

また、左上肢前腕外側が知覚過敏となっており、他の部位は知覚脱失状態にある。

左上肢の手関節、手指は自動運動は全く不能である。

特に、左上肢前腕の知覚過敏帯に異常知覚が存在する。

(3) 原告には、左眼瞼下垂が存在する。

(4) 原告は、平成八年八月五日、症状固定し、自動車保険料率算定会において、後遺障害等級として、併合四級の事前認定結果がでている。

〈1〉 左上肢の用廃五級六号

〈2〉 左鎖骨の変形一二級五号

4  (損害)

(一) 治療費 二二七万二五八五円

保険会社から全額支払を受けた。

(二) 付添看護料 一七五万四〇〇〇円

(1) 入院付添費 一二九万五〇〇〇円

原告は、入院日数二五九日間、常に生活の全体にわたり原告の妻照代(以下「照代」という。)の看護を必要とする状態であったため、一日当たりの付添費は五〇〇〇円を下らない。

5000円×259日=129万5000円

(2) 通院付添費 四五万九〇〇〇円

原告は通院期間中一五三日間は、左手が自由に使えず、歩行にも困難を極め、しかも転倒すると受け身が思うようにとれないため、照代の付添が不可欠であった。

よって、一日当たりの付添費は三〇〇〇円を下らない。

3000円×153日=45万9000円

(三) 入院雑費 三三万六七〇〇円

1300×259日=33万6700円

(四) 入通院交通費 三八万八四四〇円

原告は、前記入通院に際し、照代の付添が不可欠であったため、合計三八万八四四〇円の交通費を要した。

(1) 原告本人分 一二万一七六〇円

(2) 照代分 二六万六六八〇円

(五) 休業損害 二八〇万〇五四九円

原告は、前記入通院日には勤務先を休まざるを得ず、それによる休業損害は、次のとおりである。

(1) 給料賞与減額分 一六九万八六〇七円

平成六年三月 二四万五二六九円(賞与)

平成六年六月 七八万〇七一六円(賞与)

二万六七〇〇円(昇級差額)

平成六年一二月 二六万六一四七円(賞与)

五四一四円(昇級差額)

平成七年三月 六万三八九四円(賞与)

平成七年六月 二万五六三八円(賞与)

平成七年一二月 二六万三一八五円(賞与)

平成八年三月 二万一六四四円(賞与)

(2) 有給休暇使用による損害 一二九万三〇八四円

半休を二分の一と計算すると、有給休暇の使用日数は七八日となる。

三か月間の一日の平均賃金は、一万六五七八円であるから、右有給休暇を使用できなくなった損害は、次のとおり一二九万三〇八四円となる。

1万6578円×78日=129万3084円

(六) 逸失利益 一億五六三〇万五六二四円

(1) 症状固定時(平成八年八月五日)の年収 一〇三七万二八八一円

(2) 労働能力喪失率(後遺障害等級四級) 九二パーセント

(3) ホフマン係数(本件事故当時四一歳)一六・三七九

1037万2881円×0.92×16.379=1億5630万5624円

(4) 根拠

〈1〉 原告の職業は、大学の事務職であり、その中心的な職務内容である入試業務、試験監督業務、すなわち答案用紙、問題用紙の大量配布、回収作業等が本件事故の後遺障害により全く不可能となっている。

〈2〉 また、原告の職務には文書類を綴じる作業も多いが、右腕しかしようできないため極めて困難を伴っている、。

〈3〉 更に、視聴覚教室での業務である視聴覚機器など重い物を移動させたり、ビデオカメラ、一眼レフカメラの撮影を行う業務もほとんどできない状況にある。

〈4〉 一般事務としての文書の作成に当たっての筆記は、絶えず文鎮を欠かすことができず、パソコンの操作は右手だけのため、他の事務職員と比べて能率が低くならざるを得ない状況にある。

〈5〉 その他、事務としての職務で必要となるハサミや定規等を使用できない等仕事上においてかなりの困難を伴っている。

〈6〉 このように、原告が現在勤務できているのは、原告の特別の不断の努力によるものであって、この状態が継続できる保証は全く存在しない。

したがって、原告に後遣障害を原因とする逸失利益は前記のとおり認められるべきである。

(七) 慰謝料 二三二五万円

(1) 入通院慰謝料 三二五万円

〈1〉 入院約八・五か月

〈2〉 通院約二四か月

〈3〉 原告は、本件事故後、五日間昏睡状態に陥り、その後、精神不穏状態にあって、約四〇日間の記憶を喪失するに至った。

また、照代は、本件事故により、連日、原告の看病のための心労の影響により、心身症にかかり、通院するまでに至った。

原告の入通院は極めて長期間に及び、原告が本件事故により受けた精神的苦痛は計り知れないものがあるが、あえてこれを金銭に評価すれば、三二五万円は下らない。

(2) 後遺障害慰謝料 二〇〇〇万円

〈1〉 原告は、後遺障害等級四級に該当する後遺障害が残り、前記のとおり原告本人の職務遂行が極めて困難になっただけでなく、原告が唯一の趣味で生きがいとして週一回ないし四回行ってきていたテニスができなくなったこと、歩行、特に階段の昇降が困難になるなど、日常生活のうえでも極めて大きな支障が生じていること、更に、左上肢の幻肢痛に日夜悩まされ、現在も鎮痛剤を服用しなければならない状態にあること、左眼瞼下垂が生じ、原告の顔面の外貌にも醜状障害が存在する。

このように原告が受けた精神的苦痛は計り知れないものがある。

〈2〉 また、原告の前記後遣障害により、日常生活をともにし、原告の身の回りの世話を含めたあらゆる面で照代が受けた精神的苦痛も計り知れないものがある。

〈3〉 よって、原告の後遣障害により原告が受けた精神的苦痛を金銭に評価すれば、二〇〇〇万円は下らない。

(八) 物損 三八万四〇〇〇円

(1) 眼鏡 六万四〇〇〇円

(2) 被害車両 一三万円

(3) 医師への謝礼 一九万円

藍野病院 六万円

大阪医科大学附属病院 一三万円

(九) 弁護士費用 一六四九万六六七八円

差引請求額の一〇パーセントが妥当である。

よって、原告は被告に対し、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償として、金一億八一四六万三四六六円及びこれに対する本件事故の日である平成五年一一月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4(一)は認める。

同4(二)(1)は、平成五年一一月一四日から同年一二月一〇日までの二七日間分、一日当たり四五〇〇円の限度で認める。

右の期間の付添は医師の証明があり、相当であるが、その余は仮に照代が付き添ったとしても、医学的には必要がない。

同4(二)(2)は否認する。

通院付添の必要はなかった。

同4(三)のうち、一日当たり一三〇〇円は認めるが、入院日数は二五六日である。

同4(四)は知らない。

入院付添のための照代の交通費は付添看護費用一日当たり四五〇〇円に含まれるから、別途請求できない。

右以外の照代の交通費は被害者本人ではないから認められない。

同4(五)(1)は認め、(2)は七一万二八五四円の限度で認める。

原告は合計四三日間の有給休暇を使った。

一日一万六五七八円の賃金は認めるので、有給休暇使用による損害は、七一万二八五四円となる。

1万6578円×43日=71万2854円

同4(六)は否認する。

(一) 原告は復職し、平成四年(本件事故の前年)の年収が九一二万八二二七円であり、原告の主張によると症状固定時の年収が一〇三七万二八八一円であるとのことで、後遺障害は残存しているが、本件事故の前後では減収はない。

具体的な減収のない以上逸失利益は認定できない。

(二) 原告は、逸失利益を算定するうえで、一〇三七万円余の九二パーセントの年収を基礎にしているが、それでは一方では一〇〇パーセントの年収を確保し、他方ではそれの九二パーセントをも併せて取得しようとするわけで結局原告の所得は年収一九九一万円余となってしまう。

本件事故を契機に原告は一・九二倍の所得を得ることになり不当である。

同4(七)(1)の入通院慰謝料は三〇六万五〇〇〇円が相当である。

同4(七)(2)の後遺障害慰謝料は一五〇〇万円が相当である。

同4(八)(1)、(2)は認める。

同4(八)(3)は否認する。

医師への謝礼は損害として相当性がない。

同4(九)は争う。

三  抗弁

1(過失相殺)

(一)  原告は渋滞車両の左側と路端の約一・四メートルの間を走行していた。

道路の左端は一般に軽車両の通行区分であるから(道路交通法一八条一項)、自動二輪車の運転者は、渋滞する車両の左側と路端又は歩道との間に一・五メートル以下の余地しかない場合には、その間を走行すべきではない。

しかし、原告はそこを走行してきた。

(二)  また、渋滞車両の間隙から路外へ出るために車両が右折してくることはよくあることなのだから、そのような車のあることを念頭において、よく前方を注視し、減速などして走行すべきであった。

しかし、原告はそのような注意義務を尽くしていない。

よって、三〇パーセントの過失相殺を主張する。

2(損害填補) 二二五四万三五〇三円

(一)  住友海上火災保険株式会社からの支払 四五六万三五〇三円

(1) 治療費 二二七万二五八五円

(2) 入院雑費(藍野病院) 一万六二八五円

(3) 交通費 二〇万円

(4) 休業損害 二〇二万一三二五円

(5) サポーター代 二〇六〇円

(6) 眼鏡代 五万一二四八円

(二)  自賠責保険からの支払 一七九八万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

本件は、被告が渋滞中の車両の間に侵入して、一時停止もせずにそのまま被害車両の直前に飛び出てきたため、原告は加害車両を避けることができないまま衝突したのであるから、そもそも原告には過失相殺にいう過失は存在しない場合である。

2  同2(一)のうち、(1)、(3)、(4)は認め、(6)は五万一二〇〇円の限度で認め、その余は否認する。

同2(二)は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)、3(傷害、治療経過、後遺障害)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因4(損害)

1  治療費 二二七万二五八五円

当事者間に争いがない。

2  付添看護料 一一五万二〇〇〇円

(一)  入院付添費

当事者間に争いのない請求原因3(傷害、治療経過、後遺障害)に証拠(甲一六)を総合すると、原告はその入院治療期間中については、付添看護の必要があったものであり、原告の妻照代が付添看護をしたことが認められる。

近親者の付添看護費については、一日当たり四五〇〇円とするのが相当であり、入院合計日数は二五六日(請求原因3(二)の各入院日数を合計すると二五九日となるが、平成五年一二月一〇日、同月一四日、平成六年三月一四日は転院日で重複している。)(当事者間に争いがない。)であるから、入院付添費は、一一五万二〇〇〇円となる。

4500円×256日=115万2000円

(二)  通院付添費

証絡(甲一六)によれば、原告の通院に原告の妻照代が付き添ったことは認められるものの、付添が必要であったことを認めるに足りる証拠はないから、通院付添費については理由がない。

3  入院雑費 三三万二八〇〇円

入院合計日数は二五六日であり、入院雑費は一日当たり一三〇〇円であるから(当事者間に争いがない。)、入院雑費は三三万二八〇〇円となる。

1300円×256日=33万2800円

4  入通院交通費 一二万一七六〇円

証拠(甲一六、弁論の全趣旨)によれば、原告は入通院についての交通費として一二万一七六〇円要したことが認められる。

また、入院付添のために照代に要した交通費については、本件においては、前記認定の入院付添費に含まれるものであり、独立して請求しうるちのではなく、通院付添のための照代の交通費については、本件事故との相当因果関係を認めることができない。

5  休業損害 二九九万一六九一円

(一)  給料賞与減額分 一六九万八六〇七円

当事者間に争いがない。

(二)  有給休暇使用による損害 一二九万三〇八四円

原告の有給休暇使用による損害については、本件事故により四三日間有給休暇を使用し、一日当たり一万六五七八円の割合で合計七一万二八五四円の損害があることは当事者間に争いがない。

証拠(甲九、一〇ないし一二の各1、2、一六)によれば、原告は、本件事故による負傷の入通院治療のために、次のとおり有給休暇を使用じたことが認められる。

(1) 全日 六一日

平成五年一一月 一一日

平成五年一二月 二一日

平成六年一月 九日

平成七年六月 一〇日

平成七年七月 一〇日

(2) 半日 三四日

平成六年七月 七日

平成六年八月 四日

平成六年九月 四日

平成六年一〇月 七日

平成六年一一月 三日

平成六年一二月 一日

平成七年一月 三日

平成七年二月 三日

平成七年四月 二日

したがって、有給休暇使用による損害は、次の計算式のとおり一二九万三〇八四円となる。

1万6578円×(61日+34日/2)=129万3084円

6  逸失利益 五九七四万四一四六円

証拠(甲八、九、一六、乙一の1、2、二ないし一一)によると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、学校法人関西大学に事務職員(主事)として勤務し、本件事故前である平成四年の年収は、九一二万八二二七円であり、症状固定時(満四一歳)である平成八年の年収は一〇三七万二八八一円であって、本件事故により原告の収入の減少は見られない。

(二)  原告は、当事者間に争いのない後遺障害(請求原因3(三))(特に左上肢の用廃)により、勤務先における職務内容のうち、中心的な業務である入試業務、試験監督業務(答案用紙、問題用紙の大量配布、回収作業等)が不可能となっており、器具の移動、ビデオカメラ・一眼レフカメラによる撮影はほとんどできない状況で、文書の作成、整理等通常事務について、右手だけの作業により困難が伴い、他の職員に比べて能率が低くならざるを得ない状態である。

(三)  原告は、右の状況の中で懸命の努力をし、現時点においては、他の職員と同程度の仕事量をこなしており、このことが前記減収を免れている要因でもある。

(四)  原告の後遺障害の部位、程度からすると、原告の前記努力にも自ずと限界があるのであり、将来の昇進、昇給、果ては再就職において、原告の後遺障害により不利益な取扱いを受けることは十分に予想しうるところである。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に原告の後遺障害の部位、程度(請求原因3(三))を総合考慮すると、原告に本件事故による減収がないのは、原告の特別の努力の結果であるから、原告は本件後遺障害によりその労働能力を四〇パーセント喪失し、満六七歳までの二六年間就労可能であるものとして、原告の逸失利益の本件事故時の現価を求めると、次の計算式のとおり、五九七四万四一四六円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

1037万2881円×0.4×16.379≒6795万8967円

6795万8967円×1/(1+2.75×0.05)≒5974万4146円

7  慰謝料 一八一〇万円

(一)  入通院慰謝料 三一〇万円

当事者間に争いのない入通院状況(請求原因3(二))によれば、原告の入通院慰謝料は、三一〇万円と認めるのが相当である。

(二)  後遺障害慰謝料 一五〇〇万円

当事者間に争いのない後遺障害の部位、程度(請求原因3(三))によれば、原告の後遺障害慰謝料は一五〇〇万円と認めるのが相当である。

8  以上を合計すると、八四七一万四九八二円となる。

9  物損

(一)  眼鏡 六万四〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(二)  被害車両 一三万円

当事者間に争いがない。

(三)  医師への謝礼

医師への謝礼は、本来、患者が医師に対して感謝の気持を表すものであって、患者が完全に任意の意思で支払うものであるから、本件事故と原告の支払った医師への謝礼とは、相当因果関係がない。

(四)  以上を合計すると一九万四〇〇〇円となる。

三  抗弁1(過失相殺)

証拠(甲一二の4ないし7、9)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、東西にのびる歩車道の区別のある三車線(東行車線二車線、西行車線一車線)の道路(府道大阪高槻京都線)であり、西行車線は歩道から〇・七メートルのところに路側帯が描かれ、路側帯から中央線までは三・三メートルある(別紙現場見取図記載のとおりである。)。

2  被告は、加害車両を運転して、本件事故現場の道路西から東に向けて進行し、進行方向右側にある自宅ガレージに入るため、別紙現場見取図の〈1〉地点(以下地点を示す場合は、同見取図上の点である。)で右方向指示器を点滅させて停止し、右折待ちをした。

対向の西行車線は車両により渋滞していた。

その後西行の渋滞車両のうち、〈A〉地点の車両が加害車両のために進路をあけてくれたため、右折を開始し、〈2〉地点で一旦停止して、〈A〉の車両に左手を挙げ、頭を下げて挨拶し、その後発進して時速四ないし六キロメートルの速度で進行し、〈×〉地点で西行車線を東から西へ渋滞車両と歩道との間の約一・四メートルの間隔を時速約二〇キロメートルで進行してきた被害車両と衝突した。

被告は、衝突直前まで被害車両に気がつかなかった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件交通事故の発生について、被告の過失は明らかであるが(請求原因2(二))、原告にも対向車線の車両が渋滞車両の間から右折進行してくることもあることは予見しうるのであるから、本件においても、加害車両の発見について前方の注視が不十分であったといわなければならないから、右の点について二割の過失相殺をすることが相当である。

前記損害額についてその二割を過失相殺すると、人身損害については、六七七七万一九八五円、物損分については、一五万五二〇〇円となる。

四  抗弁2(損害填補)

1  次は当事者間に争いがない。

(一)  住友海上火災保険株式会社(被告の任意保険)からの支払

(1) 治療費 二二七万二五八五円

(2) 交通費 二〇万円

(3) 休業損害 二〇二万一三二五円

(二)  自賠責保険からの支払 一七九八万円

2  証拠(乙一三の1ないし3、弁論の全趣旨)によれば、住友海上火災保険株式会社から次の支払がなされたことが認められる。

(三) 眼鏡代 五万一二四八円

(四) サポーター代 二〇六〇円

(五) 入院雑費 一万六二八五円

3  したがって、自賠責保険金からの支払は一七九八万円であり、その余の支払は合計四五六万三五〇三円である。

4  前記人身損害分六七七七万一九八五円に右サポーター代二〇六〇円の八割である一六四八円を加えると、六七七七万三六三三円となり、これから自賠責保険金一七九八万円を控除すると、四九七九万三六三三円となる。

右四九七九万三六三三円に前記物損分一五万五二〇〇円を加えると、四九九四万八八三三円となり、これから任意保険からの支払四五六万三五〇三円を控除すると、四五三八万五三三〇円となる。

五  弁護士費用(請求原因4(九))

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、四五〇万円であると認めるのが相当である。

六  よって、原告の請求は、金四九八八万五三三〇円及びこれに対する本件事故の日である平成五年一一月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由はないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

現場見取図

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